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映画「デトロイト」は今観るべき作品


緊張のるつぼとなっていたデトロイトで、その張りつめた糸を断ち切るのはスターターピストルの空砲。

少しの悪意をもって放たれた空砲は、黒人たちの心に鬱積した思いを発奮させ、決して相手に届くことのない無数の銃弾を闇夜に打ち付ける。

届かぬ空砲は当時虐げられていた黒人たちの姿とも重なる。声をあげても相手には届かず、空砲はむなしく空にこだまする。

ただ、その空砲が悲惨なレイスの開始することになろうとは、本人たちは知る由もない―

 

今回取り上げるのは映画「デトロイト」です。

 

 

 

基本情報とストーリー

監督:キャスリン・ビグロー

脚本:マーク・ボール

出演:

ディスミュークス:ジョン・ボイエガ

クラウス:ウィル・ポールター

デメンズ:ジャック・レイナー

フリン:ベン・オトゥール

ロバーツ准尉:オースティン・エベール

ラリー:アルジー・スミス

フレッド:ジェイコブ・ラティモア

ジュリー:ハンナ・マリー

カレン:ケイトリン・デバー

カール:ジェイソン・ミッチェル

公開年:2017年(米) 2018年(日)

 

1967年7月、暴動発生から3日目の夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたとの通報を受けた大勢の警官と州兵が殺到した。そこで警官たちが、偶然モーテルに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な“死のゲーム”へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった…。

(公式サイトより:http://www.longride.jp/detroit/about/index.html)

 

 

社会的なメッセージ性を保ちながら映画として非常にバランスの取れた作品

上映時間は少し長めの約140分。しかし、中だるみすることなく、最後までハラハラさせる作品でした。

 

構成は、暴動勃発の背景、モーテル事件、その後の裁判、と大きく3パートに分かれていますが、中心となるのはモーテル事件です。

 

極限状態に陥った人々を演じる役者の演技が秀逸で、容疑者とされた人々の恐怖、差別主義の警官たちの狂気がリアルに迫ってくる様はまさに手に汗握るという形容がピッタリです。

 

また、モーテル事件でサスペンスを堪能した後、裁判のパートはグッとドラマ性が高くなり、事件によりかかわった人々の人生が大きく変わっていく様子と、不当な扱いを受ける黒人の悲しみが描かれます。

 

過度にグロテスクな表現はないものの、思わず目を背けたくなる場面もあります。終わり方も決して前向きなものではありません。

 

それでも、尚、この映画が魅力あるのはサスペンスとドラマを両立させながら、社会的なメッセージをしっかりと伝えていることにあると思います。

 

 

作品を支えるキャラクター

なぜ、本作が上手いバランスをとれているのか。

私が考える要因のひとつはキャラクターの幅の広さだと思います。

 

差別を描く映画に往々にして多いのは、純粋で真面目な黒人主人公、悪者強欲差別主義の敵役白人、そして、黒人を助ける優しい白人、というパターン。

これは物語の“型”としてわかり易い一方、現実からは乖離していて、どこか教科書臭さを感じさせます。

 

一方で、本作は決してそうはなっていない。

舞台装置として黒人差別が描かれてはいるものの、個々の黒人は必ずしも弱者で純粋な人間とは描かれません。

差別という枷を受けながら、それに対し感情を爆発させ抗い犯罪に手をのばすもの、白人と上手く関係を保って暮らしていこうとするもの、夢を追いかけ前向きに生きようとするもの、と様々な立場が描かれます。

 

同じことが白人にも当てはまります。

ウィル・ポールターの名演で妄執な差別主義者となったクラウスですが、その一方で公権力である自分たちがこの街の凄惨な状況を止めるために尽力しなければと使命感に燃えるセリフを口にする場面もあります。

 

また印象に残ったのはミシガン州警察。

モーテル事件の拡大を止めることが出来た彼らでしたが、クラウス達が黒人に非人道的な取り調べをしていると知り、それが問題だと認識したにもかかわらず、人種問題にかかわりたくないと判断し、すぐ撤退する。

 

ステレオタイプ的なキャラクターを配置するのではなく、様々な立場や性格のキャラクターを描くことで、一面的な善悪、強者と弱者を排していることが作品の魅力となっていると思います。

 

特に差別が蔓延る中、無関心層を上手く登場させたことは、物語に奥行きを与える上でかなり優れた一手だったように思います。

 

とにもかくにも、本作に登場する人物は、皆すべからく、何かに恐怖しているのです。

 

白人に虐げられること、差別が蔓延る中でも手に入れた生活を失うこと、白人に消費されようともスターダムに上るチャンスを失うこと、差別に怯えて真実を失うこと、人種差別問題に巻き込まれること、そして、無知からくる黒人の存在そのもの。

 

そして、そういった恐怖が小さな悪意や行き過ぎた正義に繋がり、最終的に悲惨な事件へと繋がっていくのです。

 

それぞれが多面的な恐怖を持っているからこそキャラクターに生き生きとした実在感を与え、物語の深さを生み出しているのだと思います。

本作、非常におすすめです。

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