馬場です。
たまには真面目な記事を書きます。
クリステンセンの「jobs to be done」という概念が日本に広まってから、しばらく経ちました。
「顧客にとって片付けなければならない用事(ジョブ/job)を発見するのが大事なんだ!」と巷では言われていますが、『それって”顧客ニーズを掴め!”という従来の主張とはどう違うの?』と疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
特に「潜在ニーズ」と「ジョブ/job」の違いとかは分かりにくいですよね、、
僕は外資系の事業会社に勤めているのですが、この辺りで悩んでいる方が多いような気がしています。
このあたりを理解するためには、逆説的ですがいったんジョブ/jobという概念を忘れることが近道だと僕は思います。ジョブ/jobという概念に縛られている時点で、本当に実用的な使い方はできないと思うのです。
究極的にはjobは思考ツールではなくて、伝達ツールでしかないと考えます。
どういうことか、順を追って説明しましょう。
例えば仕事帰りにコンビニのお酒コーナーにて、「氷結ストロングを買いたい」と思ったとしましょう。「氷結ストロングを飲みたい」とココロが感じ、それをアタマで認識しているということは、これは「顕在ニーズ」ということになりますね。
では、数ある商品の中から、なぜ「あなたは氷結ストロングを買おう」と思ったのでしょう?ビールでもなくて、普通の缶チューハイでもなくて「なぜ氷結ストロング」なのか。
そういった問いを立ててココロを深く掘り下げていった結果、「アルコール度数が9%だったのが決め手だった」ということが分かったとしましょう。氷結ストロングが「アルコール度数が高いお酒が飲みたい」という潜在ニーズを満たしていた訳ですね。
では、もう一段階深く掘り下げましょう。なぜあなたは「アルコール度数が9%のお酒が飲みたくなった」のでしょうか? ビールが飲みたくなるときもあれば、酎ハイが飲みたくなるときもあるハズです。
この問いに対してココロを掘り下げると、「手っ取り早く、酔っぱらいたかったから」という答えを出てきたとしましょう。では、それは何故でしょうか?家に帰ってアルコール度数の高いお酒を飲んで酔っぱらわずに、勉強をしたり、気になる異性と電話したりするという選択肢があるハズです。なぜ、酔っぱらう必要があったのでしょうか?
大抵のヒトは、このあたりで「なんで?」を問い続けるのが嫌になってきます。なぜならこれ以上「なんで?」を問うてしまうと、自分と正面から向き合わざるを得なくなるからです。
とっても嫌ですがココロに問いかけましょう。自分と正面から向き合うと、「アルコール度数の高いお酒を飲んで、自分を異常な状態にしなければならなかったから」みたいな答えが出てくるのではないでしょうか。素面(しらふ)では、まともな状態では寂しい夜を超えられないと思ったから、アルコールによって自分を異常な状態にしなければならなかった…とか。。
さて、この辺まで「Why?」を突き詰め、純度を上げていくと、「~したい」というココロが認知しているニーズ的なニュアンスは消えて、「~しなければならない」や「~せずにはいられない」という状況だけが抽出されていきます。
今回の場合は「夜を超えるために、自分を異常な状態にしなければならない」という状況です。(哀しいですね…)
ここで強調したいのは、「ニーズ(Needs)」を突き詰めると、「job」ではなく、「状況(Situation)」が浮かび上がるという点です。
アタマが認識したニーズ(顕在ニーズ)を堀り下げると、心が知覚したニーズ(潜在ニーズ)が浮かび上がり、さらに潜在ニーズを(嫌な思いをしながら)深く掘り下げ続けると、最後には「状況」が浮かび上がるんです。
そして、そういった状況に置かれたヒトは、「自分を異常な状態にできるものを雇う必要がある」と解釈することができます。これが顧客が片付けなければならない用事(job)ですね。
ここで大事なことは、「jobとは状況を表現するために便宜上置かれる概念である」と捉えることです。初めから「顧客が片付けなければならない用事(job)は何か」という問いに意味はないのです。
「顧客が置かれている状況は何か?」という問いにこそ意味があり、その問いに対する答えを周囲の人物に伝えるために、「氷結ストロングは、夜を超えるために自分を異常状態にするというjobを片付けるために雇われているんだよ」と表現をするだけなのです。jobは思考ツールではなく、概念伝達ツールくらいに考えた方が良いと思います。
人間が認知した「~したい」というニーズ・気持ちを、人間の利己的だったり哀しい部分と向き合って深く掘り下げ続けることによって見えてきた「状況(Situation)の発見」にこそ意味があるのです。
「もうペルソナを捨てて、ジョブ/Jobでターゲット特定するべきだ」と主張される方もいるのですが、本当の本当はペルソナ作りに罪はありません。ペルソナを作る際、「顧客の属性」や「ニーズ」を描写することに罪があるのです。
顧客ニーズの先を深く深く潜り、自社サービスがターゲットとすべき「顧客の状況」を描写したペルソナを作ることができるならば、それは極めて価値があります。それがマーケティングのファーストステップといっても過言ではありません。
皆さまがjob概念について思考する際の1つのインプットになれば幸いです!
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