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【考察】巨人はなぜ弱くなってしまったのか? ~戦略的に考えてみる~


BABAです。

「プロ野球の読売ジャイアンツが弱くなった理由」に関する考察記事です。

 

「若手を使わないからだ」とか「監督の采配が悪いからだ」とか「ドラフトが下手だからだ」みたいな論評記事をよく見ますが、そういった表層的な問題が本当に原因なのでしょうか?

じゃあ、「巨人が弱くなった原因は何か?」という問いについて初めに結論を書くと、紳士型マネジメントモデルが通用しない環境になったからであると考えます。

 

1. これまでの巨人軍の競争優位の源泉とは

一応、戦略論の体で語りたいので、まずは「これまでの巨人軍の競争優位の源泉」について考えていきます。

巨人は最近までは日本最強の球団の1つだったと思います。2007~2009年や2012~2014年にかけて、それぞれV3を達成した頃の巨人は本当に強かった。。

野手は全盛期の阿部慎之助や高橋由伸に加えて、ラミレス、小笠原、谷、村田いった他球団のスターが続々と入団しました。投手も全盛期の内海、山口鉄に加えて、杉内、グライジンガー、クルーン、ホールトンといった他球団で活躍した主力選手を引っ張ってきました。

 

「これで勝てない訳がないだろう」という方もいるかもしれないですが、FAでスター選手を集めてチーム力を上げるアプローチは、それなりのリスクも伴います。

FAで集まるスター選手は、いわば「お山の大将」です。彼らはそれぞれの球団にいた頃は、ある程度は自由な振る舞いが許されていました。そういったスター選手を一か所に集めると、選手同士での権力争い、派閥争いが高確率で起こることが予想されます。野球はチームスポーツですから、これでは一人一人の能力が高くても、チーム力が上がらず優勝はできません。

このため、FAでチーム力を上げるアプローチで勝つには、こういった「マネジメントリスク」にどう対処するのかを考える必要がある訳です。

 

そして、これまで読売ジャイアンツは「巨人軍は紳士たれ」という掟を掲げることで、このマネジメント問題を解決してきたのだと思います。

「我々は紳士である」という掟・ルールを大々的に掲げることで、これまで他球団でブイブイ言わせてきたスター選手にも紳士として、優等生として振舞うことを受け入れさせた訳です。(茶髪・ヒゲは禁止。先輩へは礼儀正しく。集合場所には30分前集合など)

 

このように考えると、これまでの巨人軍の競争優位の源泉は

  1. ”豊富な資金”を元に、FAで他球団のスター選手を集められたこと
  2. ”紳士型マネジメントモデル”を元に、他球団のスター選手をマネジメントできたこと

の2点であると捉えるのが正しそう、、ということが見えてきます。

よく言われる「豊かな資金力」だけが競争優位の源泉であると捉えるのは大きな間違いであり、「資金力と紳士型マネジメントモデルの両輪がうまく組み合う状態が維持できていたこと」が競争優位を生んでいたという捉え方です。

「読売ジャイアンツ」の画像検索結果

2. これまでの競争優位の源泉が崩壊した理由

しかし、近年巨人は弱くなってしまいました。思うように若手は育たず、外から獲得したFA選手は思うように活躍しない。先ほど挙げたような競争優位の源泉が、何らかの外部環境の変化によって崩壊したと捉えるのが自然です。

そこで、ここからは「なぜ巨人の競争優位の源泉は崩壊したのか」について考察していきましょう。

 

【理由1 】デジタル化の進展によって技術・経験が情報化され、FA選手が活躍しにくい環境に

巨人軍の競争優位が崩壊した1つ目の理由として、「デジタル化の進展によって技術・経験が情報化され、32~34歳くらいのFA選手が活躍しにくい環境に変化していること」が挙げられます。

近年、デジタル技術の進展によって、近年では投球モーションや打撃フォームの動作解析ができるようになっています。つまり、「トッププレイヤーの体がどのように動いていており、自分のフォームとどう異なるのか」といった情報を若手選手は容易に入手することができるようになりました。

 

また、自らのカラダの構造を情報的に理解することで、「自分にはどの筋肉が足りないのか」を把握したり、栄養学などの知識をもとに「どういうトレーニングをすれば、必要な筋肉を効果的に見に付けられるのか」に関する情報を容易に入手できるようになっています。

つまりデジタル化の進展によって「これまでトッププレイヤーが独占していた”技術・経験”が容易に情報化され、若手プレイヤーに容易に流通する」といった現象が起きている訳です。単純な肉体勝負になってしまえば、32~34歳くらいのFA選手よりも、20代中盤~30歳くらいの若手選手の方が優れており、こういった因果関係からFA選手が活躍しにくい環境へと変化しているのだと思います。

だからFA強化を重ねる巨人やオリックスが勝てず、自前で選手を育てる日ハムや広島、DeNAが強くなる流れとなっている構造となっているのではないでしょうか?同様の現象はアメリカでも起こっており、FA補強を重ねたヤンキースが勝てなくなり、昨年度は若手を育てたアストロズが優勝しています。

 

【理由2 】情報社会の到来により、紳士型マネジメントモデルが息苦しさの象徴へ

巨人軍の競争優位が崩壊した第2の理由として、「デジタル化の進展+侍ジャパンの常設によって、他球団との差異が露わになってしまった」ことが挙げられると思います。

一昔前は「他球団の選手と仲良く交流する」ということはなく、SNSなども無かったため、「他球団の野球選手がどのようなライフスタイルを送っているのか」はブラックボックスだった訳です。しかし、SNSの普及や侍ジャパンの常設によって「巨人軍と他球団の差異」が白日の下に晒されてしまった。

そうすると、巨人の若手選手は「他球団の選手は野球も、私生活も伸び伸びやれるのに、なんで巨人だけは”紳士”という名のもとに生活を管理されないといけないんだ」と感じるようになり、極めて強い息苦しさを認知してしまうのではないでしょうか?

巨人は紳士だから茶髪・ヒゲは禁止。紳士だから夜遊びを控えろ。紳士だから先輩を敬え。紳士だから集合場所には30分前集合…。こういった組織文化がどうしようもない息苦しさを醸成し、若手選手の育成を阻害しているのではないでしょうか。また、「野球賭博問題」や「山口俊選手の飲酒暴行問題」なども、この息苦しさの結果として起きた現象の一端として捉えるのが、正しいのではないでしょうか。

 
以上の2つの外部要因の変化が「FA選手を集めて、紳士型マネジメントモデルで統制する」という巨人軍の競争優位を陳腐化させた、と捉えています。

要するに、旧時代においては競争優位の源泉として機能していた「紳士型マネジメントモデル」が時代遅れになり、今は足を引っ張っているということです。

3. 巨人軍へのご提言

以上の分析を正としたときに、「巨人軍が競争優位を取り戻し、常勝時代を取り戻すためには何をするべきなのか」について考えていきたいと思います。

 

第1に「前時代的な球団文化・価値観の一新」を進めるべきだと考えます。

「巨人軍は紳士たれ」という価値観と、その価値観に基づいて設計された謎ルールを全てぶっ壊すことが、改革の第一歩だと考えます。書いていて切ないですが、巨人は価値観のレベルで生まれ変わらないと新たな競争ルールの中では勝ち得ない状況に置かれており、そこに気づくことが最も重要です。

そのためには「球団トップをIT企業の社長経験者にすげ替える」などの大胆な人事施策が必要になります。結局のところトップが変わらないと、本質的な意味で組織は変わりません。

「文化・価値観の改革」に成功さえすれば、東京を本拠地にしているという収益面での強みがあるので、構造的に弱くなるハズがないんです。競争ルールが変化していることに気づき、新たなルールに内部体制を適応することが本質的なイシューだと捉えます。

 

第2に「32歳を超えた選手の複数年契約の廃止 / 短期化」です。

デジタル化の進展によってベテラン選手が活躍しにくい環境変化を捉えると、「ベテラン選手との複数年契約」の費用対効果が低下していることになります。このため、「阿部慎之助選手のような将来の監督、指導者を見据える一部の人材」や「内川選手のように情報化できない技術」を持っている選手を除いて、複数年契約をすることを避ける必要があると考えます。

いまお金をかけるべきは、FA選手の新規雇用といった短期の打ち手ではないのです。早く頭を切り替えねばなりません。

 

最後に「デジタル技術への徹底投資 / 活用」です。

”トッププレイヤーの技術・経験を情報化し、その情報基盤を活用して若手選手を育成できるか否か”が今後のチーム力の大半を決めると捉え、デジタル技術の導入・活用に徹底的に投資するべきであると考えます。

豊富な資金の投資先を、FA選手ではなくデジタル技術に変えるのです。ここで重要なのは「先端技術を導入」するだけではなく、「どのように活用するのか」に関する研究投資を怠ってはいけない、、ということだと思います。

最先端の研究機関などと提携し、むしろ研究責任者をコーチの1人として受け入れ、十分な権限と裁量を与えるくらいのことをしても良いのではないでしょうか?

 

…思ったより長く、難しい文章になってしまいました(汗)

巨人が再び強さを取り戻すためには、「これまでの競争優位の源泉が通用しなくなっていることを正しく捉え、新たな時代に文化・価値観のレベルで順応する必要がある」ということだと考えます。

長文にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。記事のシェア、大歓迎です!

 


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4 thoughts on “【考察】巨人はなぜ弱くなってしまったのか? ~戦略的に考えてみる~

  1. やっぱり投手陣の育成と小林選手頼みのままが勝てなくなった原因の一つです。いつまでも打線頼みのままでは逆転勝ちは難しいまま。

    1. 2019年の戦いぶりをみると、仰る通り投手陣が課題ですよね。
      菅野、山口、ヤングマン、メルセデスと、ほとんど育成する必要がなかったメンツがローテーションを支えてますし、中継ぎは不安定ですし。

      中川、高田、大江あたりに期待したいです。

  2. FAで他球団のベテラン選手の取り過ぎでは、これでは2軍でいくら活躍しても、1軍に呼ばれないので2軍選手のモチベーションの低下につながる。2軍で活躍したら、1軍で多少成績が悪くてももう少し長い目で見守ることが重要では。

    1. トシさんありがとうございます!
      確かに今年はベテラン選手を取りすぎですね笑

      ただ巨人や阪神という人気球団は常に短期的な成果が求められ続けるので、1軍で成績を残せない若手を使い続けられないジレンマがあるよなと思います。。
      中長期視点では、それが最適解だったとしても、短期成果に引っ張られてしまう的な。

      例えるならば、ダイエットみたいな感じでしょうか笑
      中長期的な目線に立つとダイエットした方が健康に良いのは明白ですが、どうしたって短期の刹那的な欲求に従い、食べちゃうみたいな。

      常に短期成果が求められることを宿命として受け入れつつ、中長期でも勝ち続けられるような方針を出さないといけない、、
      と自らを定義しているのが巨人の難しいところだと思います。。

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