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【マイナーマンガ100選】「徒然チルドレン」のちょうどいいラブコメ感


今回、取りあげるのは「徒然チルドレン」。
若林稔也が描く高校生の4コマラブコメ漫画です。
特定の主人公はおらず、恋に悩む高校生の青春群像劇が描かれます。
週刊少年マガジンに連載中と同時にウェブでも公開されており、本夏からアニメ化も決定している作品です。

 

絶妙なバランスで“おいしいとこどり”をやってのける恋愛漫画
本作の魅力は、“等身大の高校生の恋愛”を描いていることにあると思います。
青春恋愛漫画は数あれど、ありえそうな物語やキャラクターを描く漫画は案外多くありません。

主人公が複数の女の子から好意をもたれハーレム状態になる漫画や、高校生が教師と性的な関係まで持つ漫画など、設定の奇抜さやストーリーのオリジナリティが魅力となっている漫画が多いです。
その一方で、キャラクターについては「やさしいけど優柔不断、でも、いざというときは頼れる」主人公と「黒髪、天然、おしとやかな」あるいは「金髪・茶髪、ちょっと口が悪くて、ツンデレ」ヒロイン、といった典型的な人物造詣が多く見られます。
それらはそれで魅力があると思うのですが、どこかありがちな人物像と奇抜な設定に感情移入できないというのが欠点でしょう。

そういった中、本作は、漫画なりの人物造詣のデフォルメは加えつつも、等身大の高校生の恋愛を群像劇として描くことで、男女問わず自分を投影して読むことのできるところに魅力がある作品です。

何せ登場するキャラクターが多い。主要キャラクターだけでも男女合わせてざっと40人強。
キャラクターの設定もしっかりしているので(顔は4コマ漫画のさがか、見分けがつきにくい人もいるけど・・・)、自分と共通項を持つキャラクターをふと探してしまいます。

そして、群像劇の4コマベースの漫画だからこそ高校生の日常の印象的な場面を切り取ることができ、それが上手く機能を果たしているのだと思います。

例えば、告白のシチュエーションひとつとっても、各キャラクターの特徴や関係性によって異なった展開を演出することが出来る。それが物語に幅を与え、同時に読者に感情移入させる源泉となっています。
すなわち、特定の主人公やストーリーを持たせてしまうと出来ない“恋愛漫画展開のおいしいとこどり”をやってのけているのです。

キャラクター造詣や恋愛の切り取り方が上手い
作者の若林氏は私と1歳違いの同年代。
自分が学生のころはようやく携帯が中高校生にも少しずつ普及し始めた程度で、同年代を生きた作者もそんなに変わらない状況だったと思いますが、スマホを持つことが常識となり、時代背景も違う今の高校生の日常を描けているのは感服です。

上述した通り、各キャラクターは特徴的で、わかりやすく記号化されています。

誰もが基本的に純粋で裏表がなく悪い人がいないので、その点についてのリアルさはないですが、高校生の日常の一部を切り取る4コマラブコメであることを加味すれば、止むを得ないかもしれません。個人的には、生方・上原・服部の3人の掛け合いがいかにも男子高校生っぽくて好きですね。

話を作る場面の切り取り方も巧みです。
告白とか初キスとか恋愛の定番イベントだけでなく、異性にドキッとする瞬間は日常のふとしたことにあると思いますが、ストーリー漫画だと難しいような、些細な場面をも切り取って一話のお話にすることが出来るのが本作の強みです。
例えば、両想いと思われる2人のメールのやりとりを通じたすれ違いの話や「誰々くんと誰々さんが公園でキスしてた」という噂話を耳にして、遠巻きに初キスを促すカップルの話。
こんな初々しい話、遠い昔に置いてきてしまいましたよ。

今じゃ、「―課長と―さんが不倫してる」「―さんが会社に内緒で地下アイドルやってる」みたいなネガティブな噂の方が足が速いですからね。

エロスの扱いひとつとっても、他の少年誌の恋愛漫画が直接的なエロスを多分に含んだ展開を武器にしているのに対し、本作は高校生が直面しそうな恋愛場面での性的な葛藤を描くに留まり、「あるかもしれない」状況が面白おかしく描かれています。

強いて残念な点を挙げるとすれば、平和過ぎて物語の起伏にやや欠けるところでしょうか。

ラブコメですし、そこが魅力のひとつではあるんだけれども、等身大の高校生の恋愛を扱うのであれば別れや失恋を描くことも必須のように思います。
そういった苦さが物語に深みを与え、本作の魅力を高めることになると思います。それらの点は、今後に期待ですね。

 

あったかもしれない世界に浸れ
何はともあれ、作品の多くが今も公式ウェブ上で無料公開されているので、ご覧になることをオススメします。

基本的に一話簡潔で彼と彼女の話が描かれるのでサクッと読むことが出来ます。

本作を読んで登場人物の誰かに十二分に感情移入できる人はきっと、それなりに苦くも甘い学生生活を送ったのでしょう。

十二分に感情移入はできないけど、甘酸っぱい恋物語に魅かれる人は、かつて得ることが出来なかったものをどこかで求めながら読んでいるのでしょう。

「いやいや、学生生活はこんなにきれいじゃない。こんなのありえない」と一笑してしまう人。
仰るとおりです。
物語を面で捉えたとき、こんな無垢で純粋な高校生が集まる世界は未だかつて存在したことなどないでしょう。現実はそんなに充実した学生生活を過ごした人ばかりではありません。

でも、この漫画の上手さは、物語を点でみた時に「自分にあるかもしれない」あるいは「自分にあったかも知れない」と思わせるところです。
そう思ってしまったらもう負けで、彼(彼女)が次にどうなるのか気になってしまい、作品の世界に浸かってしまうことでしょう。

肩肘はらず、あったかもしれないなと、ほのかな郷愁をもって読んでみてはどうでしょうか。
気軽に読めるラブコメです。熱中して読むタイプの漫画ではないけれど、ページをめくるとふと昔を思い返すような、そんな漫画です。

 


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